「なくしもの」
一昨日の朝、炊きたての飯が、ちょうど良い具合に余ったので、「ふむ…これはしめしめ。」と酢を切ってすし飯にした。そこに、これまたちょうど良く鍋に残っていた蓮根入りの五目ひじき煮を混ぜ込み、冷蔵庫にあった市販の稲荷揚げの皮で包むと、食感の良い五目稲荷寿司2個の出来上がりではないか。
ぴっちりラップでくるむとご機嫌な気分。手のひらに乗せ、いかにも美味しそうな弁当、ちょっとポケットにも入るし…。茶封筒なんかに入れたら、おぉぴったりだ。この大きさは秘密っぽい、人知れぬ隠し食糧だ、午後は近所の公園に出かけるかなどと、私は一人悦に入る。
食べることが私は好きだ、このメンターカフェのハンドルネームの「せとか」も、自分が一番好きな柑橘の季節に、このカフェが始まった記念につけた名なのだ。上に挙げた写真も、今までで一番美味しかったミルクティ、スリランカ首相公邸で会議の際出された一杯の、ミルクの配合色を記録したものである。
そんなわけで、気分よくデスクに向かったところ、電話が鳴りはじめ、電話が終わるなり、玄関チャイムが鳴る。ふいの来客が帰ると、もうオンラインミーティングのホストをする時間。朝来た宅急便の荷ほどきをし、PCを開けば返信すべきメールがたくさん届いている…さて仕事、仕事。
その間に、要介護4の家族の種々の要求に応え、洗濯をして花に水…。
さぁて、その日の夕食を作りながら、私は稲荷寿司のことをすっかり忘れている。午前3時に家族の麻痺側保護のための体位交換をするころ、頭の中は眠気に支配されている。そんなのが私の在宅ワークの日常なのだ。
そして、今朝、思い出した…。思うに私は、あの小さな楽しい包みを、いったいどこに置いたのか。あわわゎ。
まぁこの寒さだ、古い木造の家だし、ふた晩くらいはもつさ。この時点ではまだ、楽観的だ…。
しかし、おりしも今の室内は、昨年末を中途で越した片づけものと書類の山、おまけに作りかけの建築模型などが、家じゅうに広がる状態で始末に悪い。
見つからない。
最後に置いたと思ったところを、何度見ても包みはなかった。携帯電話なら、固定電話から鳴らすのが手だが。そうもいかず…万事休す。
日も暮れる頃、私は家のどこかに仕掛けてしまった爆弾を思い、苦笑してつぶやく。「ふっふっ!まぁこんな失敗、若い時からやってるし。」どこから出てくるかは楽しみだが、どんな姿で?…というのは思うだに怖ろしいのである。